日本ボルナウイルス研究会設立趣旨
SARSや高病原性鳥インフルエンザの発生により感染症の重要性が再認識されている近年において、特に、人獣共通感染症は注目を集めてきています。一方、私たちを取り巻く環境には、いまだ感染状況や病原性がはっきりとしないウイルス感染症が多く存在しています。
ボルナ病ウイルス(BDV)は、ヨーロッパ中東部で発症する馬や羊の地方病の原因として同定されたマイナス鎖のRNAウイルスです。これまでに様々な動物でBDV感染が報告されるとともに、人においても感染を疑わせる調査結果が世界各地から数多く発表されています。わが国においても、1990年代以降、数多くの研究成果が世界に向けて発表されてきました。中枢神経系への持続感染などユニークな性状を示すBDVの研究はウイルス学や感染症学はもちろん、神経科学や精神医学そして獣医学など幅広い分野に影響を与えてきたと確信しています。BDVの研究は、多くの科学的興味を私たちに提供してくれます。
しかし、BDV研究の現状にはネガティブな要因も少なくはありません。それは、流行地の家畜以外では、いまだにこのウイルスの感染実態が明らかになっていないということです。抗体検出を基盤とした感染調査には、その再現性と検査方法に問題があるとされています。さらに、感染個体からのウイルス分離例が少ないこと、あるいは個体からウイルスを検出した場合においても、その遺伝子配列が実験室で広く使われている標準株と極めて似通っていることなどもBDV感染の実態を不確かなものにしています。これらの状況から、ヨーロッパの流行地以外ではBDVとBDV感染症は存在しないのではないかという疑念の声が上がっているのも事実であります。しかし、本ウイルスに残されている多くの謎−例えば、自然宿主、伝播様式、そして近縁ウイルスの存在など−の科学的解明がなくては、BDV感染の真実についての議論にも解決はないように思われます。
私どもはこのような現況を鑑みて「日本ボルナウイルス研究会」を企画いたしました。本研究会は、ボルナウイルスとそれに関連するウイルスのあらゆる問題について、情報交換と研究成果の発表議論の場を提供したいと考えています。そこには、動物臨床から疫学研究、さらには実験動物や分子生物学的な解析まで含まれます。また、広く仮説や手技を議論する研究会に出来ればと思っております。先生方には以上のような趣旨をご理解いただき、是非とも積極的な参加をお願い申し上げます。
平成20年2月21日
発起人:
朝長 啓造(大阪大学)
西野 佳似(麻布大学)
萩原 克郎(酪農学園大学)
水谷 哲也(国立感染症研究所)